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 那  須  疏  水

 用水に制約される火山山麓扇状地「那須野ヶ原」の開発を可能にした「那須疏水」

 凍えるような”那須おろし”が吹き荒れないうちにと天気予報と相談しながら11月初旬の温かい日を狙って那須疏水を訪れた。
 宇都宮までは快速電車[ラピッド号]で,レンタカーを借りて東北自動車道で那須塩原ICへ,那須温泉へ向かう県道「那須高原線」を経由して最初の目的地西岩崎へ着いたのが11時30分ころ。
本来なら,那須温泉か板室温泉あるいは塩原温泉に一泊したいところだが,折からの紅葉シーズンで宿は何処もいっぱい! やむなく日帰りで,しかも妻の友人宅にも立ち寄るといった慌しい”那須疏水”駆け足探訪である。

 那須野ヶ原は,栃木県北東部,那須連山の東に広がる広大な台地・丘陵地で,狭義には,箒川と那珂川の間を云う。
一帯は,那珂川・蛇尾(さび)川・箒(ほうき)川などによって形成された砂礫層が厚く堆積する複合扇状地で,降った雨や川の水は,すぐに地下に浸透してしまって水に恵まれない。

 それでも,熊川・蛇尾川沿岸は土地が肥えていたので数百年前から集落が出来,深い共同井戸を掘ったり,沢水を引いて飲用水を手に入れていたが,安定的な水を得る為に江戸時代慶長年間から幕府代官によって用水が開かれた。

 明治時代に入って国営事業として大規模な用水として開かれたのが那須疏水である。
 那須野ヶ原には,那須疏水の他にも蟇沼用水,巻川用水,長島堀,旧木の俣用水,山口堀,那須原飲用水路などなど無数といってよいほどの用水路が開かれている。

 【参考にした文献】 「那須野ヶ原の疏水を歩く」 黒磯の昔をたずねる会(編) (有)随想社発行


那須疎水の位置

 那須疏水は,那須塩原市西岩崎の那珂川右岸で取水され千本松に至る約16kmの幹線水路と四本の大きな分水と,それから分かれる多くの枝線からできている。1976年国営那須野ヶ原総合開発事業(深山ダムの新設や
古い水路の改修など)の一環でコンクリート護岸が施され往時の面影は消えてしまったものの,現在も約一万町歩の那須野ヶ原大農場地域を潤すとともに那須塩原市や大田原市など数万人が利用する上水道用水としても使われている。           

 那須疏水は,水に乏しい那須野ヶ原開拓地の水田灌漑・飲用を目的として建設された明治期有数の規模を誇る貴重な土木遺産であり,琵琶湖疏水(京都府)・安積疏水(福島県)とともに日本三大疏水として知られている。

  「旧取水施設」
                           国指定重要文化財 2006(平成6)7.5指定

重要文化財定施設

 ・東水門(第一次,第三次取り入れ口)
  1885(明18)建設

 ・西水門(岩崎第二隧道入り口)
  1905(明38)建設

 ・導水路,余水路
  1905(明38)建設

 ・一号護岸,二号護岸,東3号・西3号護岸,
  1905(明38)建設
                          取入口の位置

 那須疏水の取り入れ口は西岩崎にあって,那珂川の水を取り入れている。
現在の取入口(頭首工)は近代的な施設だが,旧取入口はこれまでに洪水による川の流れの変化で何度も変わっている。これを古い順に記すと以下のごとくである。

 ① 1885(明18)に開通した取り入れ口(第一次取入口)
 ② 1905(明38)川の流の関係で約100mほど上流に移したもの(第二次取入口)
 ③ 1915(大4)再び川の流れの変化により①にもどり,後に現在に残る石組を設置したもの(第三次取入口)
 ④ 1976(昭51)那須野ヶ原総合開発の一環として新たにつくった現在使用中のもの(第四次取入口)
        

 
 第一次&第三次取入口

 那珂川の絶壁にトンネル(一番隧道・岩崎隧道)を堀り,その入り口に切石による石組がつくられた。
 水量を調節する開閉施設が無かった為,大水の際に砂利がトンネル内に流入したり入口上部の崖が崩れ落ちたりして取入口を埋め取水不能になることがしばしば生じたという。

 そのため1905(明38)に取入口を上流に移した(第二次取入口)。さらに10年後の1915(大4),再び最初の場所に戻された。この際写真に見られるような開閉ゲートが設置されたものと思われる。
 
    
 第二次取入口直下流の開水路
                                 
 1905(明38),200mほど上流の河原に新しい取入口を設け,開水路とトンネルによって岩崎隧道に接続した。
 第二次取入口の構造物は残っていないが,水路に写真のような柱を建てて,開閉施設を設けたらしい。
 第二次取入口の開水路
                                 
 切石を積んだ用水床と護岸からなり,幅およそ10mでかなり重厚なつくりである。

 二本のカルバートは,右手の公園整備の際に新設されたものと思われる。

 第二次取入口 西水門

 新しい取入口からの水は,開水路を通ってトンネルに入り岩崎隧道に接続する。
 古い写真資料によると,このトンネル入り口には,当初,開閉施設が無かったとのことである。

 文献によると水門の高さ370cm,ゲート鉄板の高さ191cm,幅195cmである。



 水門左手手前に那珂川に流下する余水路が開削されているのがちらりと分かる。。
 第四次取入口

 1976(昭51)年4月,那須野ヶ原総合開発の一環として近代的な施設として新設された頭首工と新取水口(中央)。右手は第一次・三次取入口。
 中央奥の建物は,那須疏水土地改良区の管理棟(無人)。

 頭首工は「西岩崎頭首工」と呼ばれ,そのあらましは次の如くである。
 ・構 造:コンクリートフローティングタイプ
 ・土砂吐:鋼製ローラーゲート
 ・堤 高:3.05m
 ・堤 長:89.0m
 
 那須疏水の旧取水口一帯は,公園として整備されている。

 清らかな那珂川の流れと那須連山の雄大な姿にしばしうっとりする。

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